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最高裁判所第三小法廷 昭和59年(行ツ)333号 判決 1987年4月21日

上告人 破産者 岡崎染工株式会社

破産管財人 田辺照雄

被上告人 国 ほか二名

代理人 菊池信男 宮崎直見 杉本正樹 老籾貞雄 中本尚 高村一之 大田黒昔生 矢野敬一 土谷睦美 ほか四名

主文

一  原判決中法人税、過少申告加算税、府民税及び市民税に関する部分を破棄し、右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

二  原判決中事業税に関する部分を破棄し、右部分につき第一審判決を取り消す。

上告人と被上告人京都府との間で、破産者岡崎染工株式会社の昭和五四年九月一日から昭和五五年八月三一日までの事業年度の事業税の債権が財団債権でないことを確認する。

三  第二項に関する訴訟の総費用は被上告人京都府の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

一  本件の事実関係

原審の適法に確定するところによれば、本件の事実関係の概要は、次のとおりである。

1  破産者岡崎染工株式会社は、昭和四九年五月一一日、破産宣告を受けた。

2  破産者岡崎染工株式会社には、昭和五四年九月一日から昭和五五年八月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)において、土地譲渡益、預金利息、違約金等の所得があつたため、同社の破産管財人である上告人は、昭和五五年一〇月三一日、次のような租税の申告を行つた。

(一)  上告人は、法人税法一〇二条一項の規定に基づき、所得金額一億六三二三万九三八五円、これに対する税額六四四五万五六〇〇円、租税特別措置法(昭和五七年法律第八号による改正前のもの。以下同じ。)六三条一項に規定する譲渡利益金額の合計額四五九八万五〇〇〇円、これに対する税額九一九万七〇〇〇円、控除税額四九万三六七八円、納付すべき法人税額七三一五万八九〇〇円との申告をした。

(二)  上告人は、地方税法五三条二項及び七二条の二九第一項の規定に基づき、府民税額四五七万二四二〇円(法人税割額四五六万六四二〇円、均等割額六〇〇〇円)、事業税額一九二七万三六八〇円との申告をした。

(三)  上告人は、地方税法三二一条の八第二項の規定に基づき、市民税額一〇七〇万三五四〇円(法人税割額一〇六七万九五四〇円、均等割額二万四〇〇〇円)との申告をした。

3(一)  中京税務署長は、前記2(一)の申告に対し、昭和五六年二月二七日付けで、租税特別措置法六三条一項に規定する譲渡利益金額の合計額を一億六三六一万七〇〇〇円、これに対する税額を三二七二万三四〇〇円、納付すべき法人税額を九六六八万五三〇〇円とする旨の更正をするとともに、過少申告加算税一一七万六三〇〇円の賦課決定をした。

(二)  京都府中京府税事務所長は、右法人税の更正を受け、前記2(二)の申告に対し、昭和五六年四月一〇日付けで、府民税額を六〇三万一〇九〇円とする旨の更正をした。

(三)  京都市中京区長は、右法人税の更正を受け、前記2(三)の申告に対し、昭和五六年六月三〇日付けで、市民税額を一四一一万四九五〇円とする旨の更正をした。

二  上告人の本訴請求

上告人の本訴請求は、前記一2(一)の法人税(前記一3(一)の更正後のもの。以下「本件法人税」という。)、前記一3(一)の過少申告加算税(以下「本件過少申告加算税」という。)、前記一2(二)の府民税(前記一3(二)の更正後のもの。以下「本件府民税」という。)及び事業税(以下「本件事業税」という。)並びに前記一2(三)の市民税(前記一3(三)の更正後のもの。以下「本件市民税」という。)に係る各租税債権が財団債権でないことの確認を求めるものである。

三  破産法四七条二号但書の趣旨

思うに、破産法四七条二号但書が、国税徴収法又は国税徴収の例により徴収することのできる請求権で破産宣告後の原因に基づくもののうち財団債権となるのは「破産財団ニ関シテ生シタルモノニ限ル」と規定しているのは、右請求権のうち、破産財団の管理のうえで当然支出を要する経費に属するものであつて、破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当であるものに限つて、これを財団債権とする趣旨であると解すべく、その「破産財団ニ関シテ生シタル」請求権とは、破産財団を構成する財産の所有・換価の事実に基づいて課せられ、あるいは右財産から生ずる収益そのものに対して課せられる租税その他破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課のごときを指すものと解するのが相当である(最高裁昭和三九年(行ツ)第六号同四三年一〇月八日第三小法廷判決・民集二二巻一〇号二〇九三頁参照)。

四  本件法人税の一般部分

そこで、まず、本件法人税のうち租税特別措置法六三条一項の規定による加算部分(以下「土地重課部分」という。)を除いた部分(以下「一般部分」という。)の債権の財団債権性について判断する。

内国法人に対しては、各事業年度の所得について各事業年度の所得に対する法人税が、清算所得について清算所得に対する法人税が課せられるが、内国普通法人等の清算中に生じた各事業年度の所得については、当該法人等が継続し又は合併により消滅した場合を除き、各事業年度の所得に対する法人税を課さないこととされている(法人税法五条、六条)。内国普通法人等は、その清算中の各事業年度の所得を解散していない内国普通法人等の各事業年度の所得とみなして計算した場合における当該事業年度の課税標準である所得の金額につき、法人税法第二編第一章第二節の規定を適用するものとした場合に計算される法人税の金額があるときは、当該金額に相当する法人税(以下「予納法人税」という。)を納付しなければならないとされているが、この予納法人税は、清算中の内国普通法人等が継続し又は合併により消滅する場合を除き、清算所得に対する法人税の予納として扱われ、当該法人等が継続し又は合併により消滅した場合には、解散の日の翌日から継続の日の前日又は合併の日までの清算期間に係る各事業年度の所得に対する法人税とみなされるものである(法人税法一〇二条一項、一〇五条、一〇八条、一一九条)。

ところで、内国普通法人等が解散をした場合における清算所得に対する法人税の課税標準は、解散による清算所得の金額であり(法人税法九二条)、解散による清算所得の金額は、その残余財産の価額からその解散時における資本等の金額と利益積立金額等との合計額を控除した金額であり(同法九三条一項)、清算所得に対する法人税の納税義務は、残余財産が確定した時に成立するものであり(国税通則法一五条二項、国税通則法施行令五条七号)、内国普通法人等は、残余財産が確定した日の翌日から一か月以内に清算所得に対する法人税を申告納付すべきものとされている(法人税法一〇四条、一〇七条)。これを株式会社が破産宣告を受けた場合についていえば、破産管財人が破産財団から破産債権者に対し配当を行つて破産債権者に対する弁済を完了したときは、裁判所は所定の手続を経て破産終結決定を行うことになるが、破産終結の時点で残余財産が存する場合は、当該会社は、その管理処分権を回復して通常の清算手続に入り、すべての債務を完済して株主に分配すべき残余財産が確定した時において、清算所得の金額が存するときは、右残余財産が確定した時に清算所得に対する法人税の納税義務を負い、残余財産が確定した日の翌日から一か月以内にこれを申告納付することになるのである。以上のとおり、清算所得に対する法人税は、破産手続終了後の残余財産の一部である清算所得を課税の対象とするものであり、その税の予納ということは、破産債権者の共同の満足に充てるため独立の管理機構のもとに統合されるところの破産者の総財産たる破産財団とは直接関係のない事柄である。また、破産法人が強制和議、同意廃止などにより継続した場合には、当該法人は、清算期間中に生じた各事業年度の所得について各事業年度の所得に対する法人税を納付すべきことになるが、その場合の課税関係も破産の目的の範囲内において存在するにすぎない破産財団とは係わりのないことといわなければならない。もつとも、予納法人税の制度は、清算所得が生ずる場合その基になる利益は清算中に漸次実現していくのに対し、清算事務が長引くことによつて清算所得に対する課税が著しく遅れることに対処するとともに、他方解散した法人が再び継続した場合等に、清算期間の各事業年度において課せられた予納法人税を当該期間に係る各事業年度の所得に対する法人税とみなすことによつて、課税に空白が生じないようにする趣旨で設けられたものであり、清算所得に対する課税及び清算中の法人が継続した場合等の課税の方式として合理性を有するものである。しかしながら、破産清算において残余財産が生じ、あるいは破産法人が継続する場合は極めて例外的な事例に属することであり、予納法人税の課税の趣旨が右の点にあるとはいつても、かかる例外的な場合に備えて予納法人税の債権を破産債権に優先して徴収できるものとし、最後の配当が終了し又は配当財団の換価が終了して清算所得の生じないことが確定した段階で予納額の還付を受けさせることとするのは、合理性を欠くというべきであつて、予納法人税の債権が公益上の理由から破産債権に優先するものとして扱われるべきであるということはできない。したがつて、予納法人税の債権は、破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当な破産財団管理上の経費とはいえず、その意味において破産法四七条二号但書にいう「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」には当たらないと解するのが相当である。

そうすると、本件法人税の一般部分の債権は、財団債権に当たらないものといわなければならない。

五  本件法人税の土地重課部分

次に、本件法人税の土地重課部分について判断する。

租税特別措置法六三条一項所定の土地重課税は、法人が昭和四四年一月一日以後に他の者から取得した土地等の譲渡等をした場合に、当該土地等の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額を基礎とし、本来の各事業年度の所得に対する法人税の額又は清算所得に対する法人税の額とは別途に計算された上で本来の法人税額に上乗せされる租税であり、本来の法人税額が存しないときであつても納付すべきものである。それは、本来の法人税額を計算するに当たつてその他の損益と通算し所得に含められる右譲渡利益金額の合計額を他の所得から分離し、これを課税の対象とするものであるというができる。内国普通法人等は、清算中に土地等の譲渡による譲渡利益金額が生じたときは、これに係る土地重課税の額を本来の清算所得に対する法人税の額に加算して納税する義務を負い、清算中の各事業年度に土地等の譲渡による譲渡利益金額が生じたときは、これに係る土地重課税の額(以下「予納法人税の土地重課部分」という。)を本来の予納法人税の額に加算して納付しなければならない。予納法人税の土地重課部分も、清算中の内国普通法人等が継続し又は合併により消滅する場合を除き、清算所得に対する法人税の予納として扱われるものであるが、内国普通法人等は、清算中の土地等の譲渡による譲渡損益の金額を通算し譲渡利益金額があるときは、これに係る土地重課税を本来の清算所得に対する法人税の額が存するかどうかにかかわらず納付しなければならないから、予納法人税の土地重課部分は、右内国普通法人等が納税すべき土地重課税の額を超え過納となる場合を除き、納め切りになるものである。

以上のとおり、土地重課税は、土地等の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額を分離しこれを課税の対象とし、本来の法人税額が存しないときであつても課せられるものであり、また、予納法人税の土地重課部分は、清算中の各事業年度の土地等の譲渡による譲渡利益金額を基礎として計算されるものであり、清算所得に対する法人税の予納として扱われるものの、清算所得に対する法人税の額が土地重課税の額を加算した金額とされるところから、原則として納め切りになるものである。したがつて、破産財団に属する土地等が譲渡され、その譲渡利益金額が実質的に破産財団に帰属する場合には、右土地等の譲渡に係る土地重課税及び予納法人税の土地重課部分は、破産財団を構成する財産からの収益に対して課せられる租税として、破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当な破産財団管理上の経費に属し、「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に当たると解するのが相当である(このように解しても、前記最高裁第三小法廷判決に違反するものではない。)。

しかし、破産財団に属する土地等が別除権の目的となつている場合については、一考を要する。別除権の目的たる土地等は、形式的には破産財団に属するものの、破産債権者の共同的満足の引当となるのは別除権行使後の余剰部分のみであり、実質的には、右余剰部分のみが、破産財団に属するのである。別除権の目的たる土地等の譲渡による譲渡利益金額についてみると、当該土地等の譲渡による収益の額から譲渡に際し支出された譲渡経費(換価費用)の額及び別除権者に対する優先弁済額を控除した残額が、その譲渡による譲渡利益金額以上であるときは、その譲渡利益金額は実質的に全部破産財団に帰属するとみることができるが、右残額が右譲渡利益金額に満たないときは、譲渡利益金額の中のその満たない金額に相当する部分は別除権者に対する優先弁済に充てられ(以下この部分を「別除権者に対する優先弁済部分」という。)、実質的にはその余の部分のみが破産財団に帰属するとみるべきである。したがつて、土地重課税の課税の対象となる土地等の中に別除権の目的となつている土地等が含まれ、かつ、その譲渡による譲渡利益金額の中に別除権者に対する優先弁済部分が存するときは、土地重課税又は予納法人税の土地重課部分のうち、右課税の対象となる土地等の譲渡に係る譲渡利益金額の合計額から右優先弁済部分を控除した金額(譲渡利益金額の合計額の中の実質的に破産財団に帰属する部分)を基礎に計算される土地重課税の額に相当する部分のみが、破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当な破産財団管理上の経費として、「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に当たり、その余の部分は、これに当たらないというべきである。

そうすると、本件法人税の土地重課部分に係る譲渡利益金額の合計額(一億六三六一万七〇〇〇円)の計算の基礎とされた各土地等の譲渡による譲渡利益金額の中に別除権者に対する優先弁済部分が存するとすれば、本件法人税の土地重課部分の債権のうち、右譲渡利益金額の合計額から右優先弁済部分を控除した金額を基礎に計算される土地重課税の額に相当する部分のみが財団債権に当たり、その余の部分は、財団債権に当たらないものといわなければならない。

なお、原審の確定した事実からは、本件法人税の土地重課部分に係る譲渡利益金額の合計額の計算の基礎とされた各土地等の譲渡による譲渡利益金額の中に別除権者に対する優先弁済部分が存するのかどうか、存するとすればその金額がいくらであるか不明であるため、土地重課部分の債権の中に財団債権に当たらない部分が存するのかどうか、存するとすればその金額がいくらであるかをここで確定することはできない。

六  本件過少申告加算税

過少申告加算税の債権は、本税たる租税債権に附帯して生ずるものであるから、それが財団債権に当たるかどうかは、本税たる租税債権が財団債権性を有するかどうかにかかるものというべきである。

したがつて、本件過少申告加算税の債権のうち、本税たる本件法人税債権の中の財団債権部分に対応する部分は財団債権に当たり、その余の部分は財団債権に当たらないものといわなければならない。

七  本件府民税・市民税

法人に対する府民税・市民税のうちの均等割は、府内又は市内に事務所又は事業所を有することに伴い資本金額等に応じ均等に課せられるものである(地方税法二三条一項一号、二四条一項、二九二条一項一号、二九四条一項)。したがつて、破産法人に対する右均等割は、破産法人が破産の目的の範囲内においてなお存続することに伴い負担すべき経費に属し、その債権は財団債権に当たるというべきである。

一方、法人に対する府民税・市民税のうちの法人税割は、法人税の額を課税標準とするものであり(地方税法二三条一項三号、二九二条一項三号)、実質的には当該法人税に係る所得又は土地等の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額を課税の対象とするものであるということができる。清算所得に対する法人税の納税義務を負う法人は、その法人税額を課税標準として算定した法人税割額について納税義務を負い、また、予納法人税を納付する義務のある法人は、その法人税額を基礎に算定した法人税割額を納付しなければならない(地方税法五三条二項、三二一条の八第二項)。そして、この法人税割に係る予納税は、清算所得に対する法人税の額が存しないときには還付されるものであつて(地方税法五三条六項、三二一条の八第六項)、その性格は、予納法人税の性格と同じである。したがつて、前記四及び五で説示したところと同様の理由により、その債権のうち、前記譲渡利益金額の合計額の中の実質的に破産財団に帰属する部分に対応する部分のみが財団債権に当たり、その余の部分は財団債権に当たらないというべきである。そうすると、結局のところ、法人税割に係る予納税の債権のうち財団債権に当たるのは、予納法人税の債権の財団債権部分に対応する部分であり、その余の部分は財団債権に当たらないということができる。

以上により、本件府民税・市民税の均等割の債権は財団債権に当たり、また、本件府民税・市民税の法人税割の債権のうち、本件法人税債権の財団債権部分に対応する部分は財団債権に当たり、その余の部分は財団債権に当たらないものといわなければならない。

八  本件事業税

法人に対し課せられる事業税は、各事業年度の所得又は清算所得を課税の対象とするものである(地方税法七二条一項、七二条の一二)。法人の清算中に生じた所得に対しては、当該法人が継続し又は合併により消滅した場合を除き、各事業年度の所得に対する事業税は課せられない(地方税法七二条の五の二)。清算中の法人は、残余財産が確定した時において清算所得の金額が存するときは、清算所得に対する事業税の納税義務を負い、また、清算中の各事業年度の所得を解散していない法人の所得とみなして、その事業年度の所得及びこれに対する事業税額を計算し、その税額があるときは、当該金額に相当する事業税を納付しなければならない(地方税法七二条の二九第一項)。そして、この事業税に係る予納税は、法人が継続し又は合併により消滅した場合には清算期間中の各事業年度の所得に対する事業税とみなされるが、それ以外の場合は清算所得に対する事業税の予納として扱われるのであつて(地方税法七二条の二三の二、七二条の二九第三項)、その性格は、予納法人税の性格と同じである。したがつて、前記四で説示したところと同様の理由により、その債権は、財団債権に当たらないというべきである。

そうすると、本件事業税の債権は、財団債権に当たらないものといわなければならない。

九  結論

以上のとおり、本件法人税、本件過少申告加算税、本件府民税及び本件市民税の各債権は、その全部又は一部が財団債権に当たらない可能性が存するから、右各債権が財団債権に当たるとして上告人の本訴請求を排斥した原審の判断には法令の解釈適用を誤つた違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。したがつて、右の違法をいう限りにおいて論旨は理由があり、原判決中右各租税債権に関する部分は破棄を免れないところ、本件法人税の土地重課部分に係る譲渡利益金額の合計額の計算の基礎とされた各土地等の譲渡による譲渡利益金額につき、別除権者に対する優先弁済部分の存否及びその金額を明確にし、右各租税債権のうちの財団債権に当たらない範囲を確定するため、更に審理を尽くさせる必要があるから、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

また、本件事業税の債権は財団債権に当たらないから、右債権が財団債権でないことの確認を求める上告人の本訴請求は、正当として認容すべきである。原判決及び第一審判決が右債権は財団債権に当たるとしたのは法令の解釈適用を誤つたものであり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであり、論旨は理由があるものといわなければならない。したがつて、右部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消し、上告人の請求を認容することとする。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条、四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤正己 安岡滿彦 長島敦 坂上壽夫)

上告理由

一 原判決は、上告状添付目録記載の租税債権(以下本件租税という)が破産法四七条二号但書の規定する請求権に該り財団債権であるとするが、右は同法令の解釈を誤つたものであり、右法条についての最高裁判所判例(昭和四三年一〇月八日第三小法廷判決・民集二二巻一〇号二〇九三頁。以下最高裁判例という)に相反する判断であつて、破棄されねばならない。

二 破産法四七条二号但書の解釈

破産法四七条二号但書は、破産宣告後の原因に基く国税徴収法または国税徴収の例によつて徴収することのできる請求権(以下公租公課という)のうち、「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に限り財団債権とする旨を規定する。本件租税は、破産宣告後の原因に基く公租公課であり、右法条により、財団債権に該るか否かが本件の争点である。

「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」という文言は、広狭、種々の解釈が可能であり、単に文理解釈により、その意味を確定することは不可能であり、又、妥当でない。破産法全体(ことに財団債権に関する規定)及び関連諸法規との衡平(バランス)を配慮して解釈するべきである。

最高裁判例は、破産法四七条二号但書の解釈として、破産宣告後の原因に基く公租公課のうち「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に限つて財団債権とした趣旨は、それが破産債権者にとつて共益的な支出であることにあると解すべき、従つて右規定にいう公租公課とは、破産財団を構成する各個の財産の所有の事実に基いて課せられ、あるいはそれら各個の財産のそれぞれからの収益そのものに対して課せられる租税、その他破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課を指すと解するのを相当とするとし、最高裁判例の事案である個人破産者の所得税につき、所得税が一歴年内における個人の総所得金額を課税対象(課税客体)とするもので、総所得は破産財団と別個のものであるから、右破産法四七条二号但書の規定する公租公課に該らず、破産宣告後発生の所得税は財団債権でないとした。右事案は個人破産のケースで破産財団に属する財産と、自由財産に属する財産とが併存していたが、破産宣告後の所得税は総所得金額に対する課税であることを理由に財団債権でないとした。両財産併存を理由に、財団債権でないとするものでないことが重要である。

最高裁判例は、破産法四七条二号但書の解釈を、単純な文理によらず破産法上、財団債権とされるものが、原則として、破産債権者にとつて共益的支出であること、又、財団債権をそのように規定することが合理的であることを配慮し、財団債権とされる破産宣告後の公租公課の範囲を右に述べたとおり限定したもので、極めて妥当である。

最高裁判例の意義は、破産法四七条二号但書の解釈を示すと共に、その解釈に従えば、総所得金額に対する課税は、財団債権に該らないことを明らかにしたところにある。

ところで、租税は本来負担であり、本質的には、破産財団管理の経費とは別個のものである。最高裁判例の趣旨は、負担という本質を有する租税のうち、破産財団を構成する個々の財産に直接的に結びつく等の理由から、社会通念上、破産財団に属する財産の管理上当然その経費と認められるものに限つて財団債権としたものである。

最高裁判例は以上の通り、衡平を保つ優れたものであるのに、原判決はそれに依拠するとしながらも、最高裁判例が所得税を財団債権でないとしたのは、破産財団に属する所得と、自由財産に属する所得が併存し、その全体に課税にされることを理由とすると誤解し、それに加えて、破産財団に対する負担、イコール破産財団管理の経費とする短絡的な論理で、上告状添付目録の租税債権はいずれも財団債権とする誤つた結論を導いたものである。

三 本件租税の個々について原判決の法令解釈の誤りを指摘する。

(一) 予納法人税について

原判決は、予納法人税は財団債権であるとし、その理由として次の諸点をあげる。

ア 破産法人は破産終結まで各清算事業年度ごとに予納法人税を納めなければならない。

イ 予納法人税は破産財団に属する財産からこれを支出せざるを得ない。

ウ 課税客体である所得は、破産債権者の配当にあてられ、破産債権者の利益に帰するものである。

右のうち、ア、イは当然のことで、破産財団から支出を要する租税債権であるからこそ、それが財団債権に該るか否かの問題が生ずるのである。従つて、ウの理由が財団債権に該ることを肯定するに足りるかどうかであるが、予納法人税を納付した結果所得が発生するというのであれば、予納法人税は経費といえるのであるが、利益に対し、課税するというのは、その逆で、単なる負担にすぎず、社会通念上、経費と認めることはできない。原判決の説示は首肯できない。

原判決の説示をはなれ、予納法人税が財団債権にあたるかどうかを検討しても、以下の理由で財団債権性を否定すべきである。

1 最高裁判例が判示する通り、総所得は、破産財団に帰属するか否かを問わず、破産財団を構成する財産とは別個の存在であり、それに対する課税は「破産財団の管理上当然その経費」と認められるものではない。

2 予納法人税は、破産者が法人であり、かつ清算所得に対し法人税を課される者に限つて課税され、自然人や、清算所得に対して法人税を課されない法人(公益法人等)には課されない。特定の破産者に対してのみ課されるものであるから、破産財団管理のための「当然」の経費ということができず、この点からも財団債権性を認めることはできない。

3 破産者が法人の場合、原則的に債務超過であり、清算所得は発生せず、予納法人税は納付されても結局は還付され、この点からも経費性がない。又、清算所得が、例外的に発生する場合でも、清算所得は破産債権者の債権の弁済後、その上資本金等を控除した残余財産の額であり、破産債権に劣後するものであつて、経費性が認められない。この点からも予納法人税を財団債権と認めることはできず、更に財団債権として優先的に納付させることは手数がかかるばかりで実益がない。

以上の通り、予納法人税を財団債権であるとした原判決は、破産法四七条二号但書の解釈適用を誤り、最高裁判例に反するもので、破棄をまぬがれない。

(二) 申告所得税中いわゆる土地重課税部分について

原判決は、予納法人税中、租税特別措置法六三条による土地譲渡益特別課税部分(以下土地重課税という)について、破産財団を構成する各個の財産のそれぞれからの収益そのものに対して課せられる租税であり、その発生原因が破産債権者の利益に帰するから財団債権であるとする(原判決三七枚目表五行目以下)。

右の論旨は、最高裁判例が、財団債権たる租税の例とした「各個の財産のそれぞれからの収益そのものに対して課せられる租税」の「各個の財産のそれぞれ」というのは土地についていえば、一筆ごとの土地を指すのでなく、破産財団に属する土地全体を指すとの理解にたつている。しかし、右理解は誤解である。「各個の財産」というのは、土地についていえば、一筆ごとの土地のごとく、独立して所有権の対象となりうる一つの物を指すことは明らかで、「それぞれ」という語は、一つの物を、その種類でまとめる言葉ではなく、「各々」と同じ、一つ一つの物という趣旨をより明確にする言葉である。最高裁判例が「各個の財産それぞれからの収益そのものに対して課せられる租税」といつているのは、個々の財産からの収益ごとに課せられる分離課税のことを述べていることは明らかである。

土地重課税は、土地の売却益に対して課せられるものであるが、個々の土地売却の収益ごとに課せられるものではない。

予納法人税として土地重課税が課せられるのは、各事業年度ごとに、土地売却による損益を通算して、結果として、益金が発生した場合に限り、その益金に対し、二〇%の課税を加重するものである。これも予納の性格をもつものであるから、清算確定の際改めて清算中に売却した全ての土地の売却損益を通算し利益があればその利益に課税するものとし、予納された土地重課税は充当又は還付される。本件破産手続においても、他の事業年度の土地売却において損金が発生しているので、仮りに本件土地重課税を財団債権として納付しても、その一部は還付される。土地売却の損益を他から切りはなして課税されるため、分離課税的な色彩も帯びることは否定できないが、「各個の財産のそれぞれからの収益」に課せられる租税ということはできない。全土地の売却損益を通算した結果、売却益が発生した場合の売却益は、個々の土地からの収益とは別個の存在である。

更に、土地重課税は、最近における法人による過剰な土地投機を抑圧し、社会的に不当と認められる利益を吸収することを目的とするもので、限時法的、社会政策的性格をもち、加えて、法人のみに課せられるものであるから、破産財団の管理上当然その経費と認められる租税ではない。

破産債権者の立場にたてば、土地投機を行つたものではなく、土地重課の負担を引受ける理由は全くない。

個人が破産した場合、土地の譲渡益についても他の譲渡益と同じく課税されないことは所得税法の定めるところであるし(同法九条一項一〇号)、又会社更生手続において原則的に土地重課税の適用がない。これとの衡平(バランス)も看過できない。

以上の事由で、土地重課税を財団債権とみることはできず、土地重課税を財団債権とした原判決は最高裁判例を誤解し、破産法四七条二号但書の解釈、適用を誤つたもので破棄をまぬがれない。

(三) 予納事業税について

予納事業税について、原判決は予納事業税についてと同じ理由で財団債権に該るとする。

予納事業税は、法人の清算所得に対する事業税の予納である点で予納法人税と同じ性格をもつものであるから、予納法人税について述べたのと同じ理由で、原判決は破産法四七条二号但書の解釈、適用を誤つたもので破棄されるべきである。

(四) 法人府民税・法人市民税について

第一審判決は、「法人に対する住民税の課税客体は府及び市内に事務所又は事業所があることであるが、破産法人の事務所又は事業所は破産財団に属するものであり、破産法人には、府民税及び市民税を支出すべき自由財産がないから、結局これらの租税も破産財団の管理上当然その経費と認められる公祖公課にあたると解するのが相当である」とし、原判決は、右判示を援用の上、事務所、又は事業所の存在自体、破産債権者に利益をもたらすとの理由を付加して、財団債権であるとする。

しかし、事務所又は事業所は、財産でなく場所であり、破産財団に属するということはありえないし、事務所又は事業所の存在が破産債権者の利益をもたらすものでもない。更に、破産法人には自由財産がなく、破産財団がその府民税、市民税を負担すべきことはその通りであるが、今問題にしているのは、その負担、即ち、請求権の存在を前提にして、それが財団債権に該るか否かであり、原判決、並びに原判決の援用する第一審判決は、負担イコール財団債権とするもので、理由不備である。

破産法人の事務所又は事業所は、破産財団とは明らかに別個のものであるし、事務所又は事業所の存在は、破産債権者に利益を与えるものでない。仮りに破産債権者に利益を与えるものであつたところで、それに対する課税は負担にすぎず、直ちに、破産財団管理上、当然の経費といえるものでないことは予納法人税について述べたと同じである。

破産法人に対する府民税、市民税を、その府市に、事務所又は事業所を有することを課税客体と解した場合、事務所又は事業所は、破産財団と別個のものであるから、破産法四七条二号但書の文理からも、財団債権でないことは明らかである。

右両税の課税客体を破産法人の清算事業年度における総利益と解する説もみられるが、そう解したときは、予納法人税について述べたと同じ理由で財団債権に該らない。

右両税は、法形式上予納とされていないが、地方税法五三条二項および六項、および地方税法三二一条の八、二項及び六項の規定から、清算所得の確定をまつて予納法人税と同様、充当又は還付がなされる旨規定され、実質は予納法人税と同じく租税の予納であり、予納法人税におけると同じ論理で、その財団債権性を否定される。

原判決は、この両税についても、破産法四七条二号但書の解釈適用を誤つており、破棄をまぬがれない。

(五) 過少申告加算税について

原判決は、過少申告税は、本税である予納法人税に付帯するものであるから、予納法人税が財団債権とされることに準じ、財団債権となるとされる。

この税が本税である予納法人税に付帯するものであること、及び本税に準じ財団債権か否かを判断すべきことについては異論がない。しかし、前述の通り、右本税は財団債権に該らず、従つて過少申告加算税も財団債権に該らない。

追記

原判決は、上告人が「破産においても会社更生の場合と同様に資産を再評価してその評価益をもつて欠損の填補にあて、しかる後に新評価額により現実の換価が許されてしかるべきである」と主張しているとされるが、誤解である。右の論述は、甲第一号証鑑定意見において述べられたところで、一つの優れた見解と思料するが、本件の処理にあたり、右の計算方法はとつていないので、右の主張をするものではない。たゞ、会社更生手続において右の計算方法が許される結果、事実上土地重課税の適用がないことを衡平の一つの要素として配慮されたいというにとどまる。

最後に、本件破産手続は、数多くの民事訴訟手続による解決を要する紛争をかかえていたことが主な理由で時間を要した上、本件のため更に終結がおくれている。迅速なご判決を切望する。

以上

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